タイトル:韓中日の国民相互の友好的な認識のために
韓中日三カ国の国民が持つ、相手国に対する認識や感情は複雑です。それは、最も近い隣国として数千年を過ごしてきた歴史の中で親疎関係を繰り返し、浮き沈みもあり、また、このような歴史的経緯と国際情勢の力学関係において、北東アジアに刻まれた現代史の傷跡が依然として私たちの認識から消えていないからでしょう。多くの困難の中でも私たちは域内共同の発展のために努力をしてきました。しかし、近年の新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)により、互いに対面できない状況が続き、残念ながら互いに対する否定的認識が深まってしまったように思われます。
互いの認識が悪化した最大の原因は、人的交流が制限されたからだと思います。互いに会えない状況では、小さな誤解も大きな不信に変わってしまいます。互いに会えないため葛藤を解消する機会もなかったのです。コロナ禍により閉鎖された国境の中で、オンラインメディアとSNSは検証されていない排他的民族主義コンテンツを生産しました。偏り歪曲された報道と情報が各国の国内でオンライン・プラットフォームの確証バイアス・アルゴリズム技術と結合し、まるで真実であるかのように拡散されました。これらの虚偽情報はデジタルプラットフォームの国境地帯で若者層を中心に衝突が発生する新しい傾向を作り出しました。私もコロナ禍前は中国や日本を頻繁に訪問し、その社会の雰囲気を観察してきましたが、ポストコロナを迎えた現在、ようやく国境越えて改めて眺めた中国と日本の姿はどこか不自然にさえ感じられました。
もちろん、二カ国間の関係の回復のための努力は試みられています。まず、韓日関係の回復のための取り組みがあります。そして、韓中関係の回復を主張する声も出ています。しかし、まだ否定的な流れを元に戻すほどの変化の兆しは見えていません。二カ国間の関係を越えた韓中日三カ国の友好と和合は、程遠く感じられます。
発想の転換が必要ではないでしょうか。韓中日三カ国の関係は、二カ国関係の累積した結果物ではないのかもしれません。韓中日三カ国を韓中、韓日、中日の累積された関係としてみなすのではなく、東アジア、またはアジアという大きな枠組みの中で括る多国間の概念で捉え東アジアとしての共同の価値と目標を追求し、持続可能な共同体に発展させていくことが重要です。言い換えれば、個別の国や二カ国関係の合計ではなく、東アジアという多国間の関係に基礎をおき、それぞれの国の個性を認める方向へと、私たちの関係を再構築しなければなりません。
このようなアジア共同体の観点から見ると、現在蔓延している韓中日三カ国の相互認識の問題も緩和することができると考えます。各国の相手国に対する反感、特に若者たちが抱いている相互に対する誤解と憎悪は、情報の歪みとともに民族主義的なプライドの現れでもあります。一言で言えば、「私たちはあなた達よりも優秀である」といったような意識です。このようなプライドを否定的にだけとらえることはできません。このようなプライドは個別の国家に縛られず、個別の国家を越え、韓中日を含んだアジア全体に対するプライドに昇華させる必要があります。自国の優秀さだけではなく、アジアのプライドを目覚めさせ、西欧文化を含んだ世界多元化の流れの中でアジアの流れを共に作り出す構造を形成しなければなりません。
このような考えを持った先駆者が110年以上も前に存在しました。多默・安重根義士です。安重根義士は、中国の旅順刑務所で東洋平和論を執筆し、韓中日三カ国の和合と協力を唱えました。東洋の平和のためには三国が協力しなければならず、平和協議会の構成、共通の貨幣を通じた経済統合、共同の軍隊など、東洋平和論の具体的なビジョンを提示しました。このような構想は現在の私たちの目にも非常に革新的な提案ですが、彼はすでに韓中日の未来のあり方を私達に示してくれたのです。安重根義士はこのようにアジア主義者だったのです。私たちが追求すべき方向も、究極的にはアジア共同体でありましょう。
韓中日三カ国が二カ国関係を超えてアジアの共通の価値を追求するための第一歩は、文化協力からスタートすることができるでしょう。最近の韓流のグローバル化からも見られるように、今や文化の中心は西洋一辺倒から 東洋がその一軸を担うようになっています。アジア文化の中興の時代が到来したのです。文化協力は、各国文化の紹介と輸出を超え、アジアの共通文化を創出しなければならず、これをワン(One)アジア文化の創造といえます。このようなワンアジア文化は、人類の普遍的価値を持ち、古代と現代、西洋と東洋、コンテンツと技術が融合した形で世界文化をリードすることになるでしょう。そしてその根底にはアジア的な人文学の価値である友愛、相違を認め尊重しながら協力する精神が存在するのです。私達はこの価値をAsian Futurismと呼ぶことができるでしょう。
ワンアジア文化の創造のための三カ国の協力はすでに文化産業界で起きています。多くのコンテンツが合弁や合作の形で作られ、プレイヤーたちも国籍にとらわれずに活躍しています。このような協力が制限を受けない環境を作り、一層協力できる政策的・産業的プラットフォームの構築に三国が共に取り組なければなりません。例えば、知的財産権の保護と協力のための各国の協力がその一つの例になるでしょう。
また、若者の協力を促すための努力も必要です。前述したように、彼らがアジア人としてのプライドを共有し発揮できる場が必要です。残念ながら、現在、彼らがコミュニケーションをとっているデジタルプラットフォームは、そのような役割を果たせていません。むしろ否定的な確証バイアスを強めるだけです。そのため三国共同のメタバースなど、どちらにも偏らない新しいデジタルプラットフォームを構築して、そこで三国の若者たちがアジア人として未来を共に構想してみる機会ができればと思います。
前世紀の初頭、欧州のある哲学者が欧州統合を唱えたときに二回の世界大戦を経験した多くの人々は、欧州統合は不可能だと言っていました。しかし、今のヨーロッパは欧州連合(EU)を通じて有機的なガバナンスを構築しています。韓中日のアジア価値への統合が、夢のように聞こえるかもしれませんが、いつか夢は叶うものです。